022. 答え合わせはない。
2015年03月03日
 少し春の兆しが感じられる2月のある平日、午後2時過ぎ、僕は新宿のタワーレコードへ行った。新宿駅東南口を出てすぐ左にあるビルの7階から10階が店舗になっている。その日は取り置きをしていた商品の受け取り期限だったので行ったのだが――追い詰められないと動けないという性格が日常のこんなところから浮き彫りになる、ポイントが10倍になるキャンペーンが同時に始まるというちょうどいいタイミングに、これは神の思し召しだとかなんとか思いながらクラシックとニューエイジを扱う10階へ――本来の目的のフロアではないが――真っ先に向かった。そこは他の階とは雰囲気を異にする、タワレコであってタワレコでないような場所だ。例えば邦楽を扱う8階は、若いお客さんが多く、その週に発売したとみられるバンドやアイドルやユニットの音源がフロア中に鳴り響いていて、僕は曲を聴くでもなく耳にしながら、もう少し音量を下げればお客さんの質問なんかも聞き取りやすくなるんじゃないかなと余計なことを考えたりする。同様にそれぞれのフロアで売っている音楽を流すので、必然的に10階は他と比べて静かな曲が流れている、というか多分、流れているはずだ。注意して聴いていないので記憶が曖昧なのだが、それくらい自然で心地いい曲、音量なのかもしれない。また置いてあるジャンルのせいか年齢層も高く、フロア全体に落ち着いたムードが漂う。
 
 クラシックコーナーを横目で見る程度に流し、奥にあるニューエイジのコーナーへ向かった。若い男性、中年の男性のお客さんが既に2、3人いた。僕はまず新譜の試聴をした。後から思えば、聴いている音楽とは全く別のことを無意識に考えながら、だったかもしれない。それでも適当にトラックを飛ばしたり早送りをしたりしながら一通り聴くと、特別好みというわけではないものの、いいな、と思った。次いでジャンル毎の棚を見て回った。現代音楽、ポストクラシカル、エレクトロニカ等々、他にも日常生活では使うことのないであろう横文字やカタカナが並ぶ。恥ずかしい話ではあるが、細分化されたジャンルは正直どこからどこまでが何なのか、よく分かっていない。
 そこに陳列されているのは、英語圏ではない恐らく北欧の名前で読み方の検討もつかないアーティスト、初めて見るようなレーベル、文字情報が極限まで削ぎ落とされたジャケット、情報量の少なさそれ故にジャンルや内容を限定させるようなアートワーク、一体いつからここに置いてあって、いつ購入されるのか見当のつかないCDたち。このうち一度も手に取られたことのないCDはあるのだろうか。特殊な紙や合皮や木が使われたジャケットを手にし、こういう素材を使うのも面白いなと感心し、写真集のついたCD、ポラロイドカメラで撮影された写真が封入されているCDなどを見て今後の制作の参考にしながら、何となく目にとまったものを手に取っていく。作り手の意図や思惑を考えると、そのこだわりに嬉しい気持ちになる。ジャケットの情報だけで勝手に中身を――どんな曲なのか音なのか想像してみる。正解は分からない。購入もしないし、アーティスト名をメモして家に帰ってから検索することもしない。少し陽だまりで暖かい平日の午後、いま日本でこの作品のことを考えているのは僕だけなのではないか、と思ったその瞬間、売り場には僕一人しかいなかった。

 ニューエイジコーナーを後にし、今度は少しクラシックコーナーを見てから7階に降りると無事に取り置き商品を受け取り、僕は帰路についた。歩きながら”あらゆる想像を喚起させるジャケットは文句なく素晴らしい、しかし聴かれることのない音楽その価値とは如何に”ということを考えた。ただ考えただけだ。正解は分からないし、答え合わせもないだろう。
 ちなみにこの日購入したのは、とあるアイドルグループのアナログ盤。これを書いている現時点でまだ針は落としていない。


(アルベルト志村)

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