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032. 日付けのない日記①
2015年03月13日
 気が滅入ってくると、街をふらふらしよう、と思う。ある時は、それしか気分を変える方法はないというくらい強迫的に。音楽を聴いても映画を見ても本を読んでも、心ここにあらずで頭に入ってこないような時。人混みは好きではないけれど、いざ人の波に紛れてしまうと、僕が無意識にも意識的にも周囲に張ったアンテナや無駄にとがっていた部分が、赤の他人、でもきちんとした社会生活を営んでいるであろう人たちにぽきりと折られて研磨される気がして、それはまるで川の流れに丸くなっていく小石のようで、落ち着くような背筋を正されるような。特に考え事をするでもなく、あるいは目的地を目指すことだけを考えて、何となく歩いたり身体を動かしたりすることで気が紛れる、というのもあるかもしれない。
 行きたいお店やいくつかの所用もでき、出掛ける理由がたまったところでやっと電車に乗り生活圏からは少し離れたところへ。電車に乗ること自体が精神的にも肉体的にも何となく削られるので――鉄道マニアになればこういう憂鬱はいっぺんに吹き飛ぶのであろうか、とか、気分を晴らそうとしているのにここで新たに滅入りポイントを溜めてしまうなんて出掛ける意味はあるのか…とかぼんやり考えたが、もう引き返せない。
 新宿で降り、中央線に乗り換えて目的の駅へ向かう。電車は少し混んでいた。僕は車両の真ん中あたりに立って、外の景色――主にぎっしりと土地いっぱいに敷き詰められた住宅なんかを眺めていたのだが、ふと目線を下ろすと、僕の前には若い恋人同士と思われる2人が座っていた。その彼氏の方が履いていたグレーのニューバランスのスニーカーが、僕が履いていたこれまたグレーのニューバランスのスニーカーと瓜二つで、何だか急に恥ずかしくなり意識などしてないし気付いてすらいないふりをしてさりげなくドアの付近に移動した。全く一緒の靴だったら嫌なので詳しく確認はしなかった。中央線沿いに出掛ける際はニューバランスを履いて行くのは止めようと思った。

 まず西荻窪で下車した。ちょうどランチタイムだったせいかレストランやカフェや食堂の前を通るといい匂いがした。お昼前に家を出たのでアソートパックに入っているアルフォート1個以外、何も食べていなかった僕はお昼をとろうかどうか逡巡しながらしばらく歩いたが結局やめた。
 古本屋に入ると、どこからともなくわくわくした気持ちが湧いてきた。空腹はいつの間にか忘れていた。違う号で平積みになっていたユリイカの中からトーベ・ヤンソン特集号を見つけたので読もうとしたが、その上に数十冊の文庫が東京都庁ないし東京のビル群みたいな状態で積んであった。そのビル状に積まれた文庫――3、4棟ほどあったと思う――をどかせば良かったのだが、僕は文庫ビルを押さえたまま下のユリイカを取ろうと横着してしまった。結果、失敗しただるま落としの如く文庫ビルは雪崩落ち、崩れて落ちた文庫は隣の文庫ビルを崩し、更にその隣も崩すといった具合で、見事に床にぶちまけてしまった。良い年をした男が一人、古本屋でおたおたと文庫を拾う姿はなんと情けなく滑稽であろう。店員さんがやってきて「大丈夫ですよ、私がやりますので」と声をかけてきてくれたがさすがに「はい、そうですか」とは言えず「ごめんなさい」と謝り続け、一緒に拾った。店員さんが文庫をバックヤードの方へ持っていくと、気を取り直してユリイカを読んだ。それから別の棚を見ると、今集めている植草甚一のコーナーがささやかながらあったので少し興奮した。なんとなく何も買わずに店を出るのは悪いような気もしていたので『こんなコラムばかり新聞や雑誌に書いていた(晶文社)』を買って店をあとにした――


(アルベルト志村)
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