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056. 本にまつわるあれこれ 10月編
2015年10月27日
 友人からPS3をもらったので、DVDプレイヤーとしてのお噂はかねがね伺っております、さてその実力は如何ほどですか、と持っているDVDやBlu-rayを見返していた中に、ヤプーズのライブDVDがあった。PS3の性能のおかげか戸川純の可愛さを再認識、改めてネットで検索をかけた際にたまたま彼女の著作(『樹液すする、私は虫の女』『戸川純の気持ち』『戸川純のユートピア』)があることを知った。こんな本が出ていたのか!今まで露ほどその存在を気にもかけず知りもしなかった己を恥じた次第である。猛烈な物欲に駆られ、某大手オークションサイトや古本屋サイトを調べてみるも、その結果は芳しくなかった。これは地道に古本屋をあたるしかないか、と長期戦を覚悟し、欲しい本リストにその書名をメモしようとした矢先、某大手中古レコードショップが“戸川純の本3冊まるっと入荷”との情報が。何たる僥倖であろう、そのタイミングのあまりのドンピシャ具合に、大いなる存在に感謝したくなるほどであった。はやる気持ちは抑えられず、空気がしんと静かに冷えゆく黄昏の街へ僕は繰り出した。
 週末だったせいか、街はにぎわっていた。件の店へ直行し、初心者マークを胸元の名札に着けた店員さんに本のことを尋ねると、わざわざ棚を一緒に探してくれたので、面倒な客で申し訳ない、などと心の中で謝りつつ首尾よく3冊とも入手できた。
 それから満足のいく買い物をした充実感に満たされたまま、某大手チェーンの古本屋に行った。文芸や芸術書コーナーを見た後、詩集・短歌コーナーを見ていると、「短歌いいですよね、おすすめってありますか?」とやにわに話しかけられた。振り向くと見覚えのない男性が立っている。この日、店員に間違われるような恰好はしていなかったので、彼は意識的に話しかけてきたようである。僕は外出の数がそう多くないにも関わらず、駅で停車駅や電車を聞かれたり(初めて利用した駅でもあった)街中で道を尋ねられたりすることが、その分母の数にしてはなかなか多い割合であるのだが、これまでの人生で――新品を扱う書店・古本を扱う古書店合わせて結構な回数行っている中で、書店でこのように声を掛けられた記憶はない。一度レジのおばさんに会計の際、「この本面白いですよね、私も好きなんです」と言われたことがあったが、この時も結構面食らったものだ(おまけにその本はおつかいで頼まれて買ったので、僕が読むものではなかった)。僕もそんなによくは知らないのですが…と答えつつ知り合いかどうかを改めて確認するために足元から上へそれとなく視線を移したが、やはり全く知らない人だった。少し老けた感じではあるが、僕よりは若いだろうことが察せられた。彼は「僕も最近短歌に興味を持つようになって――」と話し、そうなんですか、と僕は答えると、「――よく映画とかに出てくるじゃないですか、一言かっこいいこと言う人。何かそういうのいいなって――」そんなようなことを続け、興味を持ったきっかけを教えてくれたのだが、正直よく分からなかった。僕は彼の話に興味を持っていないことを悟られても全く問題ないが会話を円滑に進められ得る最低限の相槌を打ち、とりあえず近代の歌人や有名どころの現代の歌人、文庫、新鋭短歌シリーズなどを教えた。すると好感を持たれたのか話し足りないのか、「映画とかも見るんですか」だとか、「どこに住んでるんですか」だとか、「普段何をしてるんですか」だとか個人的なこともぐいぐい聞いてきたので、この後怪しい勧誘か何かが始まるのではないかと警戒感を高めつつ、あまり具体的な内容は伏せて質問に答えていた。すると「○○(僕の地元。話の流れ的に教えなくてはならない感じになって教えてしまった)に今度行っていいですか?色々教えてください」と心のK点にぐっと踏み込んできたので、一気に僕の警戒レベルはマックスへ達した。話の途中、社会的動物である人としての一般的な良識は持っているように感じられたのだが、その馴れ馴れしさは君の良識に照らし合わせてどうなんだという問いを胸に浮かべ、ではそんな感じで…とお茶を濁し無理矢理に辞去した。あれが天然のコミュ力だったら凄いなと尊敬の念を抱きつつ、もしかするとこういう特徴的なことを起こしてSNSやブログで言及されているかどうかを後から検索し、特定するゲームではないのかと被害妄想を逞しくもした。恐らく単純に短歌に興味を持ち、どうしても質問がしたかっただけだとは思うが。ひょっとすると彼に歌を詠む才能があって、作歌を始めると、やがて今日のことも歌にしたりあるいはエッセイか何かに書くかも知れない。帰りがけ、未来の歌人(未定)に思いを馳せた。


 10月に川上未映子さんの新刊が、それも4年振りとなる長編が出ると知ったのは9月のことだった。『あこがれ』か…マストバイ。そう心で静かに即決し、折ある毎に情報をチェックしていたのだが、10月某日、刊行記念のサイン会があることを知って参加をこれまた即決。整理券のWEB予約分は気付いたら満数で終了してしまっていて動揺したが、サイン会が行われる三省堂神保町本店へ開店時間ちょっと過ぎ、電話にて問い合わせたところあっけないほど無事に予約ができて一安心した。
 当日、サイン会は19時からだった。神保町をふらふら見て回ろうと思い少し早めに出たが、駅に着いたのは夕方だった。ちょうどその日から神田古本まつりというイベントが開催されていて、靖国通り沿いには連なった提灯が薄暮の街に淡く光り、その下にずらりと並んだ青空古本市のカート、秋の深まりと共に日が沈むのが早まり、冷たくなる空気の中、本を手に取る人でにぎわう様は何とも言えない風情があった。一帯を覆う雰囲気だけで僕は良い心持ちになり、まずはざっと見て回り、三省堂で予約していた本とサイン会参加券を受け取ってから、改めてゆっくりと本の回廊――もらったパンフレットにはそう書かれていた――を見て回った。最近特に進んで読んでいる詩集を数冊買った。
 そういえば音楽関係のサイン会やイベントにはこれまでに行ったことがあるが、文芸関係は初めてなので何か勝手は違うのかな、と思いお得意の検索をしたところ、以前川上未映子さんのサイン会に参加した方のブログが出てきた。読んでみると、感想とか言ったり結構熱い思いをぶつけたり割と会話する時間があるっぽい情報を得て、にわかに緊張が高まった。感想、あの…その…好き…です、くらいしか言えない気がする。きっと、私は俺は僕は、と自分の主張を伝えたいファンの方が圧倒的に多いだろうから、話す時間があったら逆に色々質問してみようと考え、何とかその緊張を和らげようとした。
 19時を過ぎたので三省堂へ向かうと、既にサイン会に参加する方の列ができていた。ほとんどの方が件の新刊を読みながら並んでいて、その光景はなかなか今まで見たことのないものだった。僕は家に帰って精神を落ち着けてから読みたかったので、スマートフォンでスポーツニュースなんかを見ていると、「高橋由伸現役引退、監督就任へ」というニュースが目に飛び込んできてひとり狼狽した。並んでから1時間ほど経ち、店内に閉店のアナウンスが流れ、店じまいの準備を店員さんがし始めた頃、いよいよ順番が近付いてきた。僕の前に並んでいた女性の方は手紙を渡したり(予想だが、手紙を渡すファンの方は結構多いのではないかと思う)、他のイベントにも参加したことがあるようで話が盛り上がっていた。その様を見ると緊張で頭がぼんやりして完全に質問することを忘れてしまった。さて、僕の番となった。「こんばんは」と挨拶をして、為書きだったため川上さんが僕の名前を書いていると、隣に立っていた恐らく出版社の方であろうと思われる男性が名前に反応――僕の名前は7割方、初めて会う人に同様の質問をさせる――したので、そこに出版関係の方の気遣いというか気分をノせる上手さを垣間見つつ、いくぶん楽に話すことが出来た。現在「みつけて未映子さん」というタイトルの曲を作っているのだが――もちろんこれは川上未映子さんから拝借した、そのことを厚かましくも伝えると、「えぇ!どんな曲ですか、歌ってみて下さい」と言われてしまい、僕のシャイネスはここぞとばかりに発揮されて、薄笑いで誤魔化してしまった。最後に握手をして終わり。川上さんはとても気さくでお綺麗だった。帰途、何だかんだ言って僕も自分の主張に終始してしまった、と顧みて、ああやって他人の個人のパワーを浴び続けるのは大変だろうなと思った。しかしとてもいい記念となり、貴重な経験ができた。曲の発表は、いましばらくお待ちいただきたい。


(アルベルト志村)
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